USHIO MAGAZINE
汐れいら×三香見サカ特別対談
——お二人は本日が初対面ですよね。お互いの印象からお伺いできますか?
三香見サカ 同世代のクリエイターはなかなかいなんですよ。TVアニメ『薫る花は凛と咲く』のエンディングを汐さんに歌っていただくことが決まった時にいろいろと調べたんですけど、同い年と知ってめちゃくちゃ嬉しくて。そこからずっと、いつかお話ができたらなと思ってました。
汐 うれしいです。Xでは呟いてもらっていたんですけど、お顔を見てなかったので、どういう人なんだろうって思っていて。年齢を公表されていないので知らなかったんですけど、今回、対談する前に聞いて、「え? なんでこんな漫画を描けるんだろう? すごすぎるだろう!」って思ってました。
三香見 いや、逆ですよ。
汐 シンガーは若い人も多いけど、漫画家さんはそんなにいないじゃないですか。自分も漫画家を目指してたわけじゃないんですけど、小学生の時に絵を描くのが好きだったので、余計にすごいなって尊敬してしまいます。
三香見 ありがとうございます。
——汐さんが歌ったエンディングテーマ「ハレの日」の感想を聞いてもいいですか?
汐 はずっ。
三香見 今日も電車で聞いてきました(笑)。最初に聞いた時は、自分が「薫る花」の中で描きたかったものがそのまま曲にしてもらえてると感じました。聞くたびに、「ここ。めちゃくちゃわかるな」っていうのがたくさんあって。ぴったりな曲を作っていただけてありがたかったです。
汐 嬉しい。ありがとうございます。 私も漫画を読んだ時から、こういうメロディでこういう色だなみたいなのが浮かんで。私も昨日、読み直していたんですけど、ハラハラしたり、悪者がいたりして盛り上がる作品が多いじゃないですか。でも、『薫る花』はみんなが幸せなのに、ずっと面白く読み続けられるのがすごいなと思って。ほんとに一切、嫌な思いをせず、幸せな気持ちで読める。
昨日、読んでる時にちょっと泣きましたね。
三香見 どのシーンですか?
汐 凛太郎がお母さんに「ありがとう」って言うシーンとか。幸せなシーンにめっちゃ泣けちゃって。感性と涙腺が刺激されてます。
——三香見さんが「私が描きたいことが詰まってる」っておっしゃってたのは、どんな部分ですか?
三香見 <なんでもないを束ねてたら/大きなブーケになって/「ありがとう」と「愛してる」で/記念日じゃない記念日を飾ってく>の部分がすごく好きなんです。生きていて、少年漫画で起こるようなピンチなことってそんなにないじゃないですか。
——あはははは。少年漫画を描いてる方が!?
三香見 (笑)言い方が悪いかもしれないですけど、平坦な感じでずっと続いていく日の方が多いと思うんです。でも、そういう中で、小さな幸せをどれだけ自分で見つけていけるか。本当に何でもない小さな幸せがブーケとなって大きな幸せとなっていくっていう感覚が、自分も普段、過ごす中で大切にしてる部分なので、ここが一番好きですね。
汐 嬉しいです。私も曲を描いてる時、お話からこういう歌詞にしようってもらいつつも、自分の気持ちもリンクしながら描けたので、すごい楽しかったんですね。ちゃんと自分の気持ちからも出ている言葉だし、『薫る花』からもらった言葉でもあるし。この作品がなかったら絶対にできなかったメロディーなので、そう言ってもらえて、めちゃめちゃありがたいです。
——三香見さんが『薫る花』の主人公を高校2年生の男子である凛太郎にしたのはどうしてだったんですか?
三香見 凛太郎にしたのはやっぱり少年漫画だからですね。初期の頃は特に、内容が少女漫画寄りなので、これを少年漫画として出していいのかっていう悩みがあって。当時から担当編集に相談してはたんですけど、読者のメイン層は男性になるので、内容が少女漫画寄りになっちゃうなら、せめて主人公は男性にしよう、と。そこから始まったんですけど、凛太郎が薫子に救われるだけじゃなくて、いつかその逆も絶対に描きたいなと思っていたんですね。今はちょうどいい感じにバランスが取れてきたんですけど、凛太郎がいいやつになりすぎちゃって(笑)、悪いところが描けないっていうのが悩みになってますね。
汐 男の子視点は参考にしてる人やモデルがいるんですか?
三香見 特にはいないですね。周りの友達と話してると、男の子って強く見えがちですけど、全然、自信がないところもたくさんあるなって思っていて。見えてないだけというのが、会話の節々から感じることが昔からあったんですね。だから、自然とあんまり人に見せたくないような弱い部分が描けたんだと思います。
汐 描いてる時はお話を描きながら思いつくんですか? 登場人物が動くみたいなのか、それとも先に描くことを決めてから描きます?
三香見 アドリブの方が多いですね。打ち合わせでざっくりとした大まかな流れを決めて、その後は好き勝手に描かせてもらってます。本当は描く予定じゃなかったところまで入れちゃって、ページが足りなくなることもあって。「マガジンポケット」っていう連載してるアプリは一応ページ数に上限はないんで、描きたくなっちゃって、えぐい枚数を描いちゃったことがあって。さすがに担当編集から一回、ストップかかりました(笑)。汐さんは歌はメロディと歌詞、どっちから作るんですか?
汐 私はメロディからのが多いですね。メロディだけならもうストックがありすぎてて。聞き返さないんですけど、始めた頃からずっとボイスメモ貯めてて、もう一万以上超えてて。
何がどれだって覚えてないですし、過去のやつより、結局は今、出る方がいいなと思うんで、あんま聞き返さないんですけど。どうしよう、あれ。そろそろ容量が重くなってきて、全然動かなくなってくるっていう。
三香見 絵も同じですよ。実家にスケッチブックがすっごい溜まってて。捨てるに捨てれなくて。
汐 確かに絶対に捨てれないですね。自分の思い出っていうか。
三香見 軌跡みたいな感じです。あと、めっちゃ下手だった時の絵を見返して、今と比べて、あー、上手くなったなって。
汐 そこで自己肯定感が上がりますよね。誰かと比べるのではなく、自分と比べるって一番いい自己完結になる。
三香見 昔の自分と比べた方が成長が一番感じれるから。なんだったら私、小学生の時の自分と比べますもん。上手くなったな〜って。
汐 小学校の頃からもう漫画家になりたかったんですか?
三香見 絵を描くのは昔から好きでした。でも、小学生の頃はファッションデザイナーとか、そっちの方の職業に就きたいなと思ってて。ただ、小六の時に「進撃の巨人」を読んで。初めて読んだ少年漫画だったんですけど、すごい衝撃を受けて。そこから漫画家っていう職業を意識始めましたね。汐さんは何歳ぐらいから?
汐 ……なりたいって思ったのは、なってからでしたね。
三香見 かっこいい!
汐 やめてください(笑)。元々がめっちゃ現実主義なんですよ。歌が上手い人なんていっぱいいるし、そもそも意識もしてなくて。本を読むのが好きだったんで、出版社に行きたいなと思っていて。狭き門だけど、本に携われたらいいなと思ってたんですね。でも、大学 1年の時にコロナになって。学費だけ取られていくのが嫌でやめようって思ったタイミングで声をかけてもらって。バンドをやってたんですけど、バンドもやめて、一人で音楽をやるようになってから、だんだん、頑張ろう、みたいになりましたね。
——汐さんの新曲「déjà vu」は17歳から24歳までの心の揺れが描かれています。凛太郎くんはその年齢に当てはまるキャラクターですが、自己評価が低く、他者と壁のある人物にしたのはどうしてですか?
三香見 当時は深く考えてなかったんですけど、今、思い返すと、自分がそうだったから。今もそうなんですけど、自己評価が低くて。でも、その割には負けず嫌いで、反骨心もヤバくて。
汐 その自己評価って、自分の中では高くないですか? 自分の中の自分は価値があるけど、他人からどう見えてるかっていう自信はない、みたいな。自分の中の自分と、他人から見た自分の自信って違うと思ってて。他人から認められてるかわかんないけど、自分だけは自分のことちゃんと愛している自信があるというか。
三香見 私は優しい話を描いてるんで、作者の人も絶対に優しいでしょって言われがちで、最初は嬉しいなと思ってたんですけど、いつの間にか、そうならなきゃって考えちゃうようになっていきました。自分は自分のことを優しいと思ったこともないし、性格が悪い部分もある。周りから言われるありがたい評価に見合う自分でいなきゃって。そこがどんどんストレスになっちゃった時があったんですよね。いい人でいられない自分が許せなくなっちゃう、みたいなのがあってから、一回、苦しくなってしまったことがあって。
汐 勝手に周りが描いた理想像に振り回されて。
三香見 理想主義者なんですよ。こういう人間でありたいという理想があるので、そこから外れるとすごく落ち込んじゃう。
汐 しかも、他人からの像が出来上がってるっていうのが嫌ですよね。
——そこはどうやって解消していったんですか?
三香見 連載途中だったんですけど、漫画を描きたくなくなっちゃってて。でも、連載は簡単に止められないので、ずっと我慢してて。ちょっとゆっくりさせてもらった時に、「連載ができなくなる。漫画が嫌いになる」っていうのと、「完璧主義の自分を許すかどうか」っていうのを天秤にかけた時に、漫画の方がやっぱり大事だったんですよね。そこから、ちょっとずつ人のことを頼ったりとか、今日やる予定だったことができなくても、まあ、いっかって思うようになった。思い込みに近いかもしれないですけど、そうやって思い込んで、許してみるようになってから、すごく生きるのが楽になりました。
汐 幸せな時と、嫌なことあった時、どっちがお話は進みます? 創作意欲が湧きますか。
三香見 えー、難しいなー。
汐 私は自分の機嫌を取るために描くことが多いんですよ。いい曲を描けたら自分が救われるから。悲しみが深いほど、這い上がるためのエネルギーで描けるっていうか。
——辛ければ辛いほどいい曲が生まれる可能性があるってことですよね。
汐 そうなんですよ! だから、最近、ちょっと辛い思いしないとなって思ってて(笑)。例えば、<今日めっちゃ愛されてんなー>みたいな日とか、これを残しておきたいなという大事な時も描くんですね。でも、残そうとして描くのと、エネルギーで描くのはやっぱり違うんですよ。エネルギーの方がいいものができてる気がする。
三香見 確かに、現実が辛い時の方がめっちゃいい絵が描けます。めっちゃメンタル落ちてた時の話を見返すと、いい表情描けてるなっていうコマが多くて。なんですかね、クリエイターの性なんですかね?
汐 そこにあるんですかね? 悲しみの中に芸術があるんですかね。
——名言が出ました! 「悲しみの中に芸術がある」。そうなると、クリエイターのお二人は幸せになれないですよね。
三香見 あはははは。
汐 まあ、両立はできないですよね。めっちゃ幸せな時は不安になるタイプですか? 私、不幸な時の方が、ここから幸せ来るっしょみたいな気持ちになれるんですよ。
三香見 わかります。
汐 幸せすぎると、この幸せは最高潮でしょ、死にたいってなっちゃう。
三香見 死にたいまでいく?
汐 いつか絶対に落ちるから、今、死んだら一番幸せと思って。落ちていくのが怖すぎるんですよね。だから、悲しい結末の映画は最後まで見れないんですよ。めちゃめちゃ幸せそうなシーンでストップする。そこで、大泣きしちゃうんですね。
三香見 幸せの時に泣きたくなるのはすごいわかります。泣きたくなるわけじゃないんだけど、涙が出てくる。だから、幸せなところを見たくなるのはすっごいわかります。私も最近おすすめされた韓ドラで、すれ違うシーンがしんどすぎて、そこから見れてなくて。
汐 しんどいのは嫌ですよね。
三香見 嫌です。だから、『薫る花』はずっと幸せなんだと思います。現実がしんどいんだから、漫画の中くらいいいじゃんって。いいよ、ピンチなんてって。
汐 本当にそう。綺麗な曲が描けるのって、世界が汚いからだなって思います。
三香見 わかる。「薫る花」はある意味、ファンタジーだと思ってますもん。嫌な世界の中で、ああやって生きたいなって思えるから。
汐 あんな人たちがいる世界は幸せですよね。みんなが自分以外の誰かのことを考えて、思いやってる。見返りを求めてない時って結構、自分も幸せにしてもらえること多いですよね。人に「ありがとう」と言うだけでも。相手は親切と思ってないかもしれないけど、こっちがいい対応できた時って、自分の気持ちもいいし。逆に家族に嫌な言葉を言っちゃった時とか、普通に自分が病みますもん。
三香見 わかる。やっちゃった、みたいな。すごい落ち込む。
汐 今も軽くても病んだりします?
三香見 さっきの話と同じなんですけど、アニメ期間は少しありました。すごくいい作品を作っていただけて。知名度も上がって、いろんな人から「読んでます」「好きです」って言ってもらえることが増えて。それがすごくプレッシャーになっちゃって。やっぱりその感想に見合う自分をって考えると、「自分は頑張れてるんだろうか?」ってどんどん不安になって。仕事量的には、客観的に見ると絶対に頑張ってるんですけど、頑張れてない感覚がずっとある。アニメを見てる時はすごく幸せだけど、一人になるとしんどい、みたいなのがずっと続いてました。
汐 めっちゃわかります。「déjà vu」を描いた時もそうなんですけど、過去と比べたら自分は進んでるはずなのに、ずっと変わってない気がして。周りも変わるし、環境も変わるし、その年々でそばにいる人も変わっているけど、自分は良くなってんのかな?
って。そこで、「頑張る」って言うのは簡単だけど、どう頑張ればいいんだ? 頑張ってるのって誰が決めるんだっけ? って。
三香見 難しいですよね。
汐 「頑張ってね」とかよく人に言っちゃうじゃないですか。
三香見 あれ、迷いますよね。きっと自分の見えてないところで頑張ってるはずだし、悩んでることもあるかもしれない。「頑張れ」って言葉が追い込んでしまうんじゃないか? みたいなことも考えちゃうし。
汐 全然、深い意味で言ってなくても、捉える人によって違うから。私もそれで葛藤した時があって。音楽をやってて、「頑張れ」って言われた時に、夢とか、向かってる先が明確にないと頑張ってる風に見えないのかな?
と思ったりして。私は楽しみたいし、ずっとこの状態を続けることが目標だと思ってても、周りから見たらポワーンとしてるように思われちゃう。でも、そこで、周りに「頑張ってる」ってアピールするのも違うじゃないですか。それは見せるための「頑張る」であって。じゃあ、どうやったら頑張ってるってなるんだろう?
みたいな。めっちゃ病んでた時期がありましたね。
三香見 ちょっとわかる気もしますね。
——「頑張れてる感覚がない」と言う三香見さん、「どう頑張ったらいいかわからない」と悩んでいたという汐さんに対して、お互いにどんな言葉をかけたいですか。
汐 そもそも、なんで頑張る必要があるのかっていうことですよね。頑張った先にあるものって、自分のやりたかったことや夢だと思うんです。自分が幸せになるためだと思ってて。「頑張る」はその為の手段でしかない。だから、そこに向かってるなら、別に頑張ってなくてもいいんじゃないかなって言いたいですね、今なら。
三香見 病んでる時は思考が狭まってる状態なんですよね。昔、自分が描いた漫画を今、見ると、本当に汚くてつたないものなんですよ。当時はきっと、頑張れてるかどうか不安な状態で描いてるけど、めっちゃくちゃ楽しそうだなとか、全力で描けてるなって感じるんですよね。そこで、当時の自分は頑張ってたなって認められる気がする。だから、病んじゃう時もあるんですけど、先の私がなんとかしてくれるだろうって、その時は思うようにしてますね。
汐 いつも自分の作品がすごい支えになってくれますよね。
三香見 不思議ですよね。
汐 越えなきゃいけない壁でもあるのに支えでもある、みたいな。
三香見 だから、捨てらんないんですよね。スケッチブックとか、ボイスメモとか。
汐 最近、腑に落ちたことがあって。一緒に仕事しているある人が、「頑張んないから成功する」って言うんですよ。確かに野球選手もよく、「頑張ってるとは思ってなくて。楽しいって思って続けてたのが努力だった」って言うじゃないですか。だから、今の私は「楽しむ」がモットーになってますね。
——今は楽しいですか? 音楽活動や漫画を描くことが。
汐 楽しいです!
三香見 日によります。あははははは。
汐 基本的にポジティブなんで、毎日、超幸せです。
——「déjà vu」は自己評価の低い“あたし”が自分を認めて、許すことで前を向けるようになった成長の過程がえがれてますね。
汐 そうなんです。自己肯定感が低かった時があったんですけど、上げる方法を身につけてしまった。
三香見 しまった?
汐 (笑)嫌なことあっても、傷ついてはいるもしれないですけど、めっちゃ自分で解決できるっていうか。めっちゃ幸せなんですよね。
——自己肯定感を上げる方法を教えてください。
汐 自分が一番大切だってことに気づくことです。自分が一番自分のこと愛してると、他人はいらないじゃないですか。作ってる曲も大好きだし、私は自分の中の自分が、すごい自己肯定感高くて。だから、他人から好かれてる自信はないけど、自分にとっての自分はすごい好きなんです。私が自分のこと好きなんだから、誰からどう思われても良くない? みたいになる。もちろん、仕事や友人、周りの人たちにも恵まれてることも大きいですね。毎日、日記描いてるんですけど、「今日も幸せでした。マジでみんな大好きです」みたいな幼稚園児のような日記になってる(笑)。もっと深いこと描けると思うんですけど、見返すと、毎回「幸せでした」「幸せでよかったです」しかない。でも、前は違ったから。「ハレの日に」も昔だったら、絶対に言い聞かせる感じで描いちゃってましたね。自分もこう思いたいから描く、みたいな。今は小さいことを拾ってたらマジで幸せだなって気づくなって実感してる。
——三香見さんは自己肯定感は高い方ですか?
三香見 本当は低いと思うんですけど、そこで足掻かずに低いままだと、今まで肯定してくれた人たちも否定することになっちゃう気がして。だから、なんとか足掻こうって思ってます。そのために、客観的に見てそんなことはないとしても、主観的に「自分にはこういう強みがある」と思い込むようにしてますね。例えば、私、人の表情を描くのがすごく好きで、こだわってる部分でもあるんですね。漫画家がたくさんいる中で表情が上手い人なんて何百何千といる。自分なんてって思う時もあるけど、自分が一番大事にしてるのはここだから、自分の強みはここって思い込むようにはしてます。それで、今までなんとかやってこれた気がしますね。そしたら本当に、そこが手を抜けない部分になってくるから、担当や周りの人からも「いい表情描くね」とか言ってもらえるようになって。私の絵が届いてるんだっていうことがちょっとずつ自信にも繋がっていく。プラシーボじゃないですけど、思い込みは大事だなって思います。
汐 思い込みは大事ですよね。思い込みが自分を愛す理由になってて。それがなんとなく的を得て、自己肯定感が上がってく。自信って出ますよね。見た目だけじゃなく、生きてる全てに出ると思う。
三香見 自信つけたいな。
汐 私には、三香見先生が自信がないように見えてないですよ。自信がない人って絶対に他人と比べると思うんですよ。でも、過去の自分と比べて、今の自分を上げっていく人って自信あるからできることだし。強いなって思います。
三香見 確かに、何か良くないことあっても、失敗したことあっても、絶対に何かしら得てやるっていう気持ちでは生きてます。
汐 強い(笑)。
三香見 いくら泣こうが、絶対に将来の自分につなげるぞ! みたいな。停滞するのが好きじゃないんでしょうね。
——お二人は似てるところがありますよね。完璧主義者のところもあるし、負けず嫌いだし。
汐 めっちゃわかります。完璧主義だからつらいですよね。自分の中のハードルも高いし。
三香見 下げればいいのにと思うんですけど、下がらないんですよね。
汐 「déjà vu」もまじでそう。完璧主義なところをちょっと許せたら自信が出てきた。ちょうどそういう歌詞をちょうど描いてたので、めっちゃわかるなと思いました。
三香見 私も歌詞を読んでわかるなと思ってました。
——恋愛と漫画の時も漫画を選んでるし、病と漫画の時も漫画を選んでるし。一番大事なものがはっきりしてるからこその揺るがさない強さがありますよね。
汐 もしも漫画がない人生を生きろって言われたらどうしますか?
三香見 えー、考えたことないかも。ちっちゃい頃から絵があったので、自分の中に。考えられないけど、しんどいかもしれない。自分がどういう人間かとか、どういう感情を持っているのかとか、そういうのを客観的に見るためにも漫画を描いているところがあるので。
汐 ほぼ自分ですもんね、作品って。
——最後に改めて、自己肯定感が低くて悩んでる、本当の自分を受け入れられない方々に、今が幸せで自信があるというお二人からメッセージをいただけますか。
汐 寂しい時もあるし、落ち込む時もあるけど、人から愛されてないように感じる時って、自分が自分のことを100%愛せてない時なんですよね。自分のことを100%愛してる器があったとして、それを他人に渡した時に、向こうからも100%の器が返ってくるはずなんですよ。だから、他人に愛された時にすごい満ち足りるけど、心に穴が空いていて、自分のことを50%しか愛してない器しか持ってなかったら、人から愛された時にも50%しか愛されてないって感じると思っていて。だから、まずは自分で自分を肯定してあげることが第一歩ですね。それは、他人から愛されてあがるものじゃないんですよ。まずは自分を許すところから。「ダメダメだ」じゃなくて、「いや、自分だけは自分のこと愛してやろう」というのが大事だと思いますね。自分の中の自信は誰にも見られないし、何も恥ずかしくないんで。
三香見 私も同じですね。許すまでがしんどいし、怖いと思うんですけど、本当に一歩、小っちゃいことでもいいから、何かしらを許してみたら本当に楽になる。だから、一回、試してみて欲しいです。あと、普段生きてて、人に対してカチンと思うことがあったら、それは、普段の自分ができていることって思うようになったら、自分のいいところを見つけられるよって。
汐 なるほど!
三香見 「なんでそんな言葉遣いするの?」と思ったら、私は普段そういうのをちゃんと気をつけてるんだって思うように変換すると、相手にもそんなムカつかなくなるし、自分も満たされる。自分のいいところを見つけられる。これ、おすすめです。
汐 私もその考え方は持ってたんですけど、ちょっと違う方法だったかも。人にイラついちゃうことは、自分が気をつけてることだからイラついちゃうんだって。だから、イライラしなくていいって思って、そっちに行ったんですけど、確かに自分ができてるって思うのってめっちゃいいなっていう。私はただ怒りを抑えるための視点でしか見てなかったですけど、自分ができてるという視点で上がれるってめっちゃいいな。
三香見 そしたら結構、自分のいいところを見つけられるようになって、楽になりました。
汐 確かに許すまでが、見えてないから怖いんですよね。実際の出来事より、考えてるその前の時間の方が怖かったり、イメージし過ぎちゃったりするから。ホラー映画も見えてなくて、ちょっと曖昧で考えさせられるときの方が怖いじゃないですか。得体の知れないものだから怖いだけであって、一回やってみたら案外っていうことがある。
三香見 そうでもなかったな、みたいな。
汐 イメージが膨らみすぎちゃてて、考えすぎてたなって。その怖さは一生付きまといますしね。やっぱり一歩、いかないといけないですね。……あ、いい話でまとまりましね。
三香見 あはははは。
自身をさらけ出した「HB2U」
——1stEP「No one」から1年半振りとなる2nd EP「HB2U(ハッピーバースデイトゥーユー)」が完成しました。どちらのタイトルにも1と2という数字が入っているのは共通していますが、歌詞のアプローチは前作とは全く違っていると聞きました。
「そうなんです。初めて出した1st EP『No one』の時は、自分ではない“誰か”の曲を書いてたんですね。誰でもないからこそ、聴くも聴かないも自由だし、聴き手が曲に自分を重ねることも自由にできるって思っていて。でも、私じゃない“誰か”の曲を書いていたのは、自分が傷つきたくなくて、自分のことを深掘って書けなかった部分もあるんですね」
——「No one」=「誰でもない人」が主人公だったけど、今作は違うんですね。
「このEPに入ってる曲はほとんどが自分のことだし、初めて曲が<自分ごと>になったんです。今までは<誰か>の曲として書いてたので、どこか手元を離れた感じで、<誰か>が書いた曲を歌ってるに近かった。でも、今回は自分のことを自分の言葉で書いてるので、このEPを作れてよかったなって思います。これは多分、辛い時期がなければ書けなかったと思うんですね。まず、自分のことを深掘ろうともしなかったと思うんですけど、そういう曲たちが入っていることがすごく嬉しくて。もちろん、今までの曲も愛してるんですけど、やっと自分だなって言える。<これは自分です>っていう曲ができたことが嬉しいですね」
——でも、自分自身をさらけだすことは勇気がいることでもありますよね。
「そうですね。これまでは<これが私の歌です>って言わなかったからこそ、批判があっても全然大丈夫だったんですけど、自分の曲って自分自身だから。自分をさらけ出すことで、肯定も否定もされる。それで、傷つくのが怖かったですけど、出したからには覚悟もあるし、私の音楽人生において、大事なEPになるんじゃないかなと思います」
——自分自身を深掘りして、さらけ出そうと思ったのはどうしてですか?
「私はずっと、歌詞を書くときに人からの見られ方を考えてなかったんですね。今までは、自分さえ良ければ良かったから、多少歌詞がわかりづらくても、それを採用してた。人に届けるっていう意識がなかったんですよね。どちらかというと、<自分を残していきたい>という独りよがりでエゴな感じだった。でも、それでも私の曲を好きって言ってくれる人がいて。それで幸せだなって思ってたんですけど、一緒に音楽をやってくれている周りの人たちに喜んでほしいって思うようになって、もっと多くの人に聴いてほしいなという意識に変わってきて」
——聴き手を意識して作詞するようになった。
「みんなが求めてるような歌詞も書きたいなって思ったんです。でも、寄せていくと、私じゃなくても書けると感じるようなものができちゃった。自分の個性を見失ったように感じたんですね。自分で自分を一番肯定してたからこそ、自分の個性が見えなくなった瞬間に、何も肯定できなくなっちゃって。歌詞を書けば書くほど、自分がなくなっていくみたいな感覚に陥っちゃって。自分がいいなって思ってた感性すらも忘れてきちゃって。私は何がいいと思ってたんだっけ?……みたいな」
——誰にでも伝わるような歌詞を書かなきゃっていう思いから、好きでやってた自分を見失う状況に陥ったわけですね。
「その時に鬱みたいな感じになっちゃったんですよ。でも、鬱なことすら自分で蓋をしてて。 ずっと悲しいのに、悲しくないって思うようにしてたんですね」
——自分の感情を見ないようにしてた。
「見ないようにしてることすら気づかないぐらい、別に何もないって思ってたんです。でも、ライブのバンドメンバーが気づいてくれて。「大丈夫?どうしたの?」って。私、無感情みたいな感じになっちゃってたみたいなんですね。その時に気づいてくれてから、私も自分で自分が悲しんでることに気づいちゃって。そこで、今までやってなかった自分の曲を書こうと思ったんです。実際、自分と向き合って書くのはすごく辛いんですよ。でも、そのことを歌にも書きたいと思った。今までは傷つきたくないから書かなかった“自分のこと”を覚悟を持って書こうと思ってできましたね」
——それが「déjà vu」と「リバースデイ」です?
「実は『リバースデイ』は3年前にあって」
——でも、<うつつなんて鬱だ>や<バースデイソング>、<歌って愛せる僕まで>など、本作のテーマと共通する歌詞になってますよね。
「合わせたわけじゃないんですけど、誕生日やケーキっていうコンセプトも一緒で。『déjà
vu』は私の心情なんですけど、『リバースデイ』はどっか過去のことだし、まだ心に入りきれてないんですよね」
——過去の自分ではある?
「過去の自分ですね。実体験だし。確かに悲しい思いをぶつけたんですけど、この時はまだ表面的な悲しさしか書けてない。 そうじゃなくて、もっと深くだって思って書いたのが『déjà vu』ですね」
——「déjà vu」は17歳、22歳、23歳、24歳という具体的な年齢も出てきてます。ご自身にとっての17歳というのはどんな時代でしたか?
「まだしっかり音楽をやってなかったので、自分だけのものがなくて。自分を表すものがなかった。その時はまだ何も考えてなかったんですけど、だからこそ、自信もなかったというか。まだ曲を書き始めた頃だったからかもしれないんですけど」
——16歳で作詞作曲を始めて、バンドをやってた頃ですよね。
「自分に自信がなかったから曲を書き始めて、それでハマったっていうか。自分の自信につながることが分かって続けるようになったんですね。<見下された気がして でも あたしが見下してたのかな>という歌詞があるんですけど、自分が誰かを見下してたからこそ、相手が見下してることもわかるんじゃないかと思うんですよ。自分が経験してないものだったら感じないはずだから。 結局、人に自分を見ちゃって、そんな自分を嫌だなって思うっていう」
——その後に<「頑張ってね」って ほらほら>という歌詞がありますが、「リバースデイ」にも<「がんばれ(笑)」か>というフレーズがあります。
「ちょっと意味が違ってて。昔は、それこそ見下したような煽りの『がんばれ(笑)』だったんですけど、今は本気で『頑張ってね』って言ってくれてる人がいる。それは、自分のいる場所が変わったからで。だから、成長は感じるし、含み笑いの「がんばれ」をいう人は周りにいなくなったけど、それはそれで、また違う悩みというか」
——三香見先生との対談でも議題になった「頑張るってなんだっけ?」っていう問いかけですよね(*対談参照)。ちなみに、他の曲ですが、「バンドエイド・マイ・ティーン」でもご自身の10代を歌ってますね。<オンチなセンチメント>というのは。
「ABEMAの「オオカミちゃん」で使ってもらった『センチメンタル・キス』を書いたのが19歳の時だったんですね。私は元々歌が好きだったわけではなく、おばあちゃんに褒められられたから好きになったんですよ。おばあちゃんはすごい愛情を注いでくれたけど、お母さんは全然褒めてくれなかった。これは、精神的にも身体的にも残ってる傷や痛みの歌ですね。傷つきすぎて、痛みや悲しさを感じないようになってしまったというか」
——泣いてる自分をほっておいて、どこか傍観してますね。
「そんな自分を自分以上に愛してくれた人がいて。自分もその人がしてくれたように他人を愛せるようになっていくっていう。ずっと隠していた痛みや過去の辛さをひっくるめて愛してくれる人が大事で、そういう人がいるから自分も他人を愛せるってことですね」
——そして、また「déjà vu」に戻ると、2番の22歳っていうのは「No one」を出した年齢です。<たまには死んでもよかったよ>っていうのはどんな心境ですか?
「正直、私はずっと幸せなんですけど、それでもやっぱり病む時はあって。今はハッピー人間になれてるけども。やっぱ時々死にたいなって思うことあって。『愛されてるのに寂しいな』とか、『音楽も別には全然悪くないのにな』とか。ずっと夢がなかったから、ふと、どこに向かってんだっけ?
ってなるんですよね。夢があったらそこに向かえばいいのに、夢がないからどこに向かってるかわかんないままでずっといて。だから、進んでるのかもわからない。何かやりたいことがあったら、どこにいるかわかると思うんです。『やりたいことや目指すものがないといけないのかな』とか、それこそ、『夢があった方が頑張ってる風に見えるのか』とか。そういうのが全部なくて。無理に作っても違うし、将来のこと、愛情の満ち足りなさ、いろんな負の感情におそわれて死にたいな、みたいに思ったりする夜とかはありましたね。それが治ってもまた繰り返す。それこそ、デジャヴュのように幾夜も繰り返してました」
——<愛されたい でも淋しい23>と歌ってますが、ついこの前の話ですよね。
「そうですね。自分のまま愛されたいって思っちゃってるから寂しいんだなって思って。逆に言えば、その寂しさは愛されてた印なんですよね。愛されたことがあるから寂しいって思うのに、私には何もないんだって悲観的になったりして。急に音楽も何もしたくないみたいになって逃げたり、自分も周りも全部死んじゃえばいいのにって思っちゃったり。夜に寂しくなっちゃうんで、夜なんて来るなって思ったり。そういう夜を重ねて、治ってもまた、こういう病んじゃう日が来るのかなって思う。それが、誕生日会ともリンクして」
——誕生日も毎年、来ますもんね。
「そこで、もうこんな年なんだって思うと思うんですけど。毎年、もうこんな年って焦るのに忘れたりするじゃないですか。命は有限とわかってるのに、ついダラダラしちゃったりする。誕生日を祝ってくれる人も変わったり、周りの状況がどんどん変わってるのに、自分は変わってない気がして焦ったりして。そういう焦燥や寂しさ、いろんなのを全部ひっくるめて死にたいとか思ったりするけど、絶対に自分が自分を愛した方がいいんだなっていうのは思うんですよ。そうじゃないと、今までの自分のことを好きって言ってくれてた人を否定することになってしまう。今までの私を好きって言ってくれてたんだからいいじゃんっていう風に立ち直れるんですけど……あれ、なんの質問でしたっけ?」
——(笑)23歳の時の心情を伺ってました。そして、<頑張り方なんてわからないけど/泣いた夜も抱きしめていくよ>というフレーズのあとに、<少し許してみる 自信ができて>と続きます。
「夢なんてなくてもどこでも行けるのに。夢がなきゃいけないっていう思想すらもなくていいよって許せたら 呼吸も楽になるし、生きやすくなるなって」
——リリースの少し前、2月9日に24歳のバースデイを迎えました。ここに<あいつも目が離せないような24>とありますが、未来のことまで書いたのはどうしてでした?
「もうこの曲で覚悟を決めたからですね。今までは『ずっと楽しく続けてたい』だったのが、もっといきたいって思ったんですよ。夢だって別に今はないけど、できるかもしれないしい」
——<my dream>って書いてますよね?
「そう、できました」
——「ハレの日に」の取材時は「夢はないままでいい」って言ってた。これはかなり大きな変化じゃないですか。
「はい。『楽しく続けたい』だけだった。それで良かったし、焦ってもなかったんですけど、ふと、どこに向かってるんだろうっていうのはあって。けど、急にできるものですよね」
——(笑)どんな夢ですか?
「自分の書いた脚本か小説をどこか連載をして。そこに自分をちょろっとでもいいんで登場させたくて。で、映像化してもらって、自分の作った世界の中で歌いたいっていう」
——それはいいですね!
「オープニングも自分がやりたいし。主人公はもちろん違うんですけど、自分が作ったお話の中で自分が歌いたい。汐れいらとして出ていきたいっていう夢ができました。私の中ではビッグな夢ですし、一気に全てが叶う、最高の夢なんですけど」
——「No one」の自分じゃない誰かの物語の中に「HB2U」で自分のことを歌う汐れいららが入っていくという。汐さんにしかない夢ですよね。
「確かに。でも、これは「薫る花」のおかげでもあって。コミックスの帯に私の名前が入っていたんですよ。曲と本、どっちも好きだし、それがすごく嬉しくて。私はみんなが持ってる夢と同じ夢を掲げたくなくて。言葉にするとカッコいい夢はいっぱいあるけど、実際に自分が本当にやりたいと思ってないと気分が乗らないじゃないですか。
だから、ずっと夢というものが何かわからなかったんですけど……わかりました。そこにいくにはっていうのを考えていくと、通過しなきゃいけないところも大きくなるんですけど、やりたいことが見つかったことが嬉しくて。それは、このEPを作ったから気づけたことで」
——自分が本当にやりたいこと、やるべきことが見つかった日のことを<セカンドバースデー>って言ったりしますけど、ここから汐れいらはどうなっていきますか?
「自分のためだけに歌うことから脱却したので、人に届けるっていう意識が強くなると思います。やっぱりたくさんの人に聞いてほしいし、広まってほしいなっていう風になれた。今まではあんまり興味なかったんですけど、周りの人を幸せにしたいしっていう意識もあるし、意外と人に向けて歌うのも全然悪くないなっていうのを思っていて。そういう目線でどこまでいけるのか。自分だけだったらそこまでだったけど、人に対して歌うようになった時にどこまで見れるかなっていう好奇心があります」
——自分の内面を見つめ直して、自分のことを歌うようになって、他者に意識がいくようになったんですね。
「自分だけだった時は自分すら見えてなかったんですよね。表面的なやりたいをやってただけだった。自分に深く潜ってないから、他人のことも客観的に見てしまうし、壁があるっていうか、自分にも壁があったからこそ、人にも壁があったけど」
——汐れいらの苦悩と覚悟が詰まった一枚をどう届けたいですか。
「寂しや焦り、悲しみといった負の感情って、きっと誰にもあると思うんです。自分のことを書いた歌詞、私の体験がみんなに共有できるかどうかはわからないし、乗り越え方が書いてあるわけじゃないけど、少しでも気持ちを軽くしたい。絶対に救えるとは思ってないけど、ちょっとでも楽になってもらえるといいなって思います。寂しい夜に思い出してほしい、寂しい誕生日には私が『ハッピーバースデートゥーユー』ってみんなに言いたい。みんな、一人一人が孤独だけど、決してあなたは一人じゃないよっていうのを伝えたいですね」